イタコ祭りのメーンイベント「口寄せ」
イタコ祭りは御神輿や山車などが出て皆でかけ声をかけるといった、いわゆるお祭りにみられるような華やかなクライマックスはありません。お寺の僧侶たちが先頭をきって、境内にある「三途の川」を渡り、その後に参拝者たちが続く行列「上山式」が行われ、皆で黙々と広い境内を歩くほか、やはり「イタコの口寄せ」がメーンイベントといえるでしょう。
イタコは一時期よりずいぶん数が減ってしまったと言われ、勢揃いする大祭のときでも最近は10人いるかどうかといったところだそうです。厳しい修行をしてイタコになろうとする人は多くないようで、恐山に集うほとんどのイタコは高齢の女性たちです(一部若いイタコもいます)。また、彼女たちの多くは東北地方から出たことがなく、ずっと地元でイタコとして活動をしてきた人たちです。そのため訛りがきつく、遠方からの相談者との会話が難しいこともあるようです。じっさいに高齢のイタコと会話をするときにはゆっくりと話し、分からないことがあれば躊躇せず聞き直すようにしましょう。少ないとはいえ大祭のときには複数のイタコが揃います。ですので複数のイタコに「口寄せ」(降霊術による鑑定)をしてもらう相談者もいるようです。
鑑定時はやはり「言い当てられる」場合もあれば、そうでもないこともあるようで、自分と波長のあうイタコを見つけるためには2〜3人のイタコに鑑定してもらうのもいい方法かもしれません。地元の人はさておき、恐山はたびたび訪れることのできる場所ではないですから。イタコはよく知られているところの「降霊術」が終わると、相談者の心のケアをしてくれます。悩みを聞き、アドバイスをしてくれて鑑定は終了。降霊術そのものももちろん大事ですが、このアフターサービスにも注目したいところです。
恐山大祭で複数のイタコが鑑定しているさまをみていると、行列のできている人気のイタコはこのアフターサービスをかなり念入りに行っていることが分かります。やはり、死者の霊魂を呼び出すだけではイタコの仕事としては不十分なようで、恐山まで足を運んだ相談者の心を解放し、導くところまでしっかりと行えるイタコが人望を集めているといえるでしょう。ですので行列があまり前に進まず、かなり長時間並ぶことを覚悟しなければなりません。もし人気のイタコの鑑定を受けようとするならば、お寺にある宿坊に泊まり早起きして列の先頭を取るか、下北駅周辺にホテルをとり朝一番にタクシーでかけつけるくらいの意気込みが必要でしょう。
そして夏の大祭はさておき、秋のお祭り時は本州最北端のこの地は年によってはもうかなり涼しいかもしれません。周囲が山に囲まれているため、急な天候の変化もじゅうぶん考えられます。出かける場合には上着や雨具の用意も万全にしましょう。毎年お祭りに来る常連客たちには、並ぶ際に腰掛けるための小さな折りたたみ椅子を持参し、座って順番を待っている人も多いようです。少しずつ数が減っていると言われるイタコ。いつか、もしかするとこの伝統は途絶えてしまうかもしれません。イタコに鑑定してもらえることはもちろん、古来人々が「天国」と信じた浜や湖、「地獄」と恐れた温泉場、岩場などを目で見ること、そしてその場の「気」を身体全体で感じることは心の浄化にもつながり、その場所に立つことで悩み、苦しみが薄れていく人もあることでしょう。恐山は古くから霊山・霊場・霊地と言われてきました。そんな地をめざし、向かい、足を踏み入れることでパワーをチャージできます。恐山まで長い長い道のりではありますが、一度チャンスを作って足を伸ばしてみたいものです。