イタコによる高度な霊術「口寄せ」
第58回全国高等学校演劇大会で最優秀賞を受賞した青森中央高校の演劇「もしイタ」は、そのテーマ性と道具を何も使わずに演じる演技力から注目されました。劇中に登場するイタコは、無名の高校野球チームを霊能力で勝たせてくれることで、見る人を楽しませてくれます。また、口寄せによって死者とも会話ができるという場面が登場したことで、不思議とも言えるイタコの霊能力を理解することができます。
青森県むつ市の恐山で行われる恐山大祭でイタコが「口寄せ」するという事実は、最近のテレビや新聞などメディアの報道もあって有名になりました。大祭の時期には多くの参拝者がイタコの口寄せを待つための長蛇の列を作ります。「もしイタ」の劇中で行われる口寄せは、死者の霊を憑依させる「仏口」の霊術で死者と会話するというものです。それに対して「生口」は生きている人の霊を憑依させるというものです。
「仏口」や「生口」のようにイタコが行うこれらの降霊術をまとめて「口寄せ」と言い、他にも死後間もない死者に対する「死口」や神霊に伺いを立てる「神口」があります。中でも今まだ生きている人の生霊を呼び寄せて憑依させる「生口」は、どのイタコにもできるというわけではありません。イタコの中のほんの一握りしか扱うことができないという「生口」は、恋愛や結婚、仕事や家族関係などの問題に特に有効です。そのために、多くの人が期待を持って口寄せを希望しています。電話による相談者は目的とする人物をイタコ自身に降ろしてもらうことで、聞き出したい質問に答えたり会話したりすることができるのです。
この時、相談者はイタコの体を借りて目的の人物と直接会話することができます。それが証拠には、目的とする人物の話す癖や口調などがそのまま再現されます。そのために初めはびっくりすることもあるでしょう。しかし、そのことは、本人と確信できる材料でもあります。イタコ自身はその人物に会ったことなどないわけですから、「生口」によって呼び寄せられた霊はそこに間違いなくやってきたという証しでもあります。また、二人にしか知り得ない情報の確認によって本人であることを確かめることもできます。一方で、呼び寄せられた人の肉体の脳記憶には残らず、本人の気持ちだけは引き出すことができますので、安心してお互いの意思を確認し合うことができるのです。また、半意識の状態でいるイタコの記憶にも二人の会話をとどめることはできません。