イタコとその聖地、恐山(おそれざん)
イタコと恐山
イタコがなぜ青森、その中でも下北半島と強く結び付いているか。それは周知の通り、ここに「恐山(おそれざん)」があるからに他なりません。“恐”なんていう字が入るような名前からして、人を寄せ付けない雰囲気が想像できるかと思います。現に恐山を説明するときには、“あの世への入口”、“死者の魂が集まる場所”、“誰でも霊感が強くなる霊地”など、恐山を形容する言葉は恐いイメージとして数多くあります。現在でもまだ、死者の魂は恐山から黄泉の国、つまりあの世へと至ると信じている人もいるくらいなのです。
恐山は、高野山・比叡山と共に、日本三大霊山としてその名を知られています。恐山一体は硫黄の山であり、至る所から鼻を突く亜硫酸ガスが噴き出し、岩肌は焼けただれたような色をして、まるで恐山自体が地獄の景色を思わせます。一転して宇曽利湖は、死の湖のような静かで怪しげな雰囲気を醸し出しています。そんな場所で行なわれるお祭りの期間に、イタコによる口寄せ・降霊の場が開かれるのです。「イタコマチ」と呼ばれるその催しは、イタコがそれぞれテントや小屋をたてて、訪れた相談者の願いを聞き届けるのです。曰く、亡くなった家族を降霊して話がしたい。曰く、亡くなった恋人の無念や気持ちを再確認したい。曰く、亡くなった家族や知人に最近の自分のことを報告して感想を聞きたい等々。
イタコと恐山の関係は、それら恐山を形容する言葉が如実に示しています。
イタコを職業として表記する場合、霊媒師となります。霊媒とはすなわち、霊界から死者の霊や、あるいはまだ生きている人間の魂を降霊させ、自分の身に憑依させることを言います。そしてイタコは、死者霊からは生前の想いを、生者の魂からは真実の心を、それぞれ語らせる口寄せを生業としているのです。霊体や霊魂をその身に降ろすので、霊界との入口である恐山は、イタコにとって最もその霊能力が発揮される場所とも言えるのです。